2014年9月17日水曜日

大切なものは行動することによってのみ手に入れることができる~レイ・ブラッドベリの言葉から~

Ray Bradbury(レイ・ブラッドベリ)は主に、SF小説を書いたアメリカの作家です。残念ながら、2012年6月5日にすでにお亡くなりになっていますが、作品がいくつか映画化もされた人気作家でした。私自身は、SFはほとんど読まないので、作品を読んだことはありません。しかし、Brain Pickingsのツイッターで、この彼の書いた一節を目にしました。


この短い文章を読んで、子どもが生まれて赤ん坊の世話に追われていた時に、おばあさんに言われた言葉を思い出しました。「子どもが可愛いというのは、子どもの世話に苦労するから可愛いのだ」と、そのようなことでした。言われてみればその通りで、もしも、子どもを育てるのが何の我慢も時間も労力も必要のない類のことであれば、子どもに対する思いももう少しあっさりしたものになりそうです。実際に自分の手で胸で、子どもを丸ごと抱えるから、目を離すことなく、心を砕くから、膨大な時間をそこに費やすから、自分が子どもの一部になり、子どもが自分の一部になる。そういうことだと思いました。

"The farmer who farms creatively and happily is a man that knows every stalk of wheat or corn that comes up on his land because he has tilled these fields, because he has planted the seed, because he has picked the fruit, because he has painted the barn… So we belong only by doing, and we own only by doing, and we love only by doing and knowing. And if you want an interpretation of life and love, that would be the closest thing I can come to." (新しいものを生み出して、喜々として農業に従事する農家というのは、すなわち、自分の農地に生えている、あらゆる麦の、あるいはトウモロコシの茎一本一本がわかっている人のことだ。なぜなら、自分自身がその土地を耕しているから。自分で種をまき、果実を収穫しているから。納屋にペンキを塗っているから。・・・そう、何か行動しないでは、自分の居場所は見つからない。実際に手を動かすことではじめて自分のものとなる。行動し、理解することでのみ、愛情は生まれるのだ。人生とは、愛とは何か、その答えが知りたいということなら、私がたどりついた答えは、おそらくそういうことになるだろう。)

子どもを育てることなどはその最たるものに違いないと思いますが、その他のことも全てそうなのではないでしょうか。ただ傍観していることでなく、自分が思い入れを持って取り組んでいること。困難にあっても投げ出さず、自らの手で動かしていること。苦労はあってもそれを楽しんでいること。私にもそういうものが、いくつもあります。自分の生活の中のそういったもの。それが、自分にとっての愛情であり、人生そのものなのだ。ブラッドベリの言葉に、そう気づかされました。

引用;The quoted part is from;
"Brain Pickings"

2014年9月3日水曜日

エド・シーランのセカンド・アルバム「X](マルティプライ)に思うこと

かの小林克也氏が、彼の番組の中で、「2枚目のジンクス」と言われるのを、しばしば耳にします。デビューアルバムで大ヒットを果たすものの、そこで力尽きてしまってセカンドアルバムがもうひとつふるわない。そのようなケースはよくあるらしい。しかし、幸いなことにエド・シーランにはそんなジンクスは、何の意味も持たなかったようです。

2011年のデビュー・アルバム「+」(プラス)は、申し分のないアルバムでしたが、2014年6月25日に発売された、エド・シーランの2枚目のアルバム「×」(マルティプライ)は、それを上回る素晴らしい出来栄えになっています。のびがあって透明で、なおかつ表現力のある歌声は相変わらず聴きごたえがあるし、日常の中の、誰も気づかないような小さな事柄を切り取って、心を伝える繊細な詩も感動的。ギターも打ち鳴らせばラップもしてみせる万能ぶり。ファレル・ウィリアムズを迎えたり、新境地を開拓することにも余念がない。17に及ぶ楽曲が収録されているのに、「これは、まあまあ」というようなものはなく、どの曲も充実しています。



エド・シーランのツイートは、彼の飾らない「男の子」っぷりが魅力で、ついフォロワーになってしまいました。食べ物のツイートがあったりします。メロン、とか、すいか、とか、チキン、とか。ただそれだけの短い言葉に、すごくうれしそうな様子がにじみ出ていて、ツイートというのも不思議なものだ、と思います。そして、そういうツイートをずっと追っていると、ここ2年くらい彼がいかに頑張ったかが、わかるような気がします。テイラー・スウィフトのREDツアーにずっと同行していた時期もあったし、なんだか激太りしていた時期や、朝から晩までプロモーションに奔走していることもありました。ここ2年間のエドの格闘が、この2枚目のアルバムに結実したのだ、と、そう思います。

ギター1本で歌う音楽小僧の魂はそのままに、「ものすごく売れてやる」という健全な野心も持ち合わせているようで、臆することなく、ポップな要素を取り入れたり、自分の中の暗い部分を暴露するような曲も作ったりしている。そんな風でいても、彼の核となる部分はいささかも損なわれることは無いようで、相変わらず、肩の力の抜けた人の好さそうな表情を見せている。そんなエドを見ていると、この人はもっと成長する。まだまだ、何かを取り込む土壌を持っている、と思わされます。

“I did everything last year,” he said exhaustedly. “Everything. Everything wrong and everything right. It was a very important year.” At one point, he moved to Los Angeles for a relationship, only to be dumped the day he arrived: “I literally landed from Canada, it ended, then I went to the house and unpacked my stuff.”
(「昨年はとにかく全部やったよ。全部、だよ。間違っていることも全部だし、正しいことも全部。ものすごく大事な1年だった」エドは疲れ切った様子でそう言った。ある時は、恋人のためにロサンゼルスに移動したのに、着いたその日に捨てられた。「大げさに言ってるわけじゃなくて、本当に、カナダから到着して、関係が終わって、家に帰って荷物をほどいた、そんな感じだった。」) 
He continued: “I was in a situation where something was presented to me that I never thought would ever be possible. I felt like I had to do it, I should not let this go, and I know now that things on the surface aren’t always what they are.”      (そして、こう続けた。「そんなことあり得ないだろう、っていうようなことが、目の前に差し出されてる、そんな状況だったんだ。ただもう、やっておかなくちゃ、このままにしておくものか、そう思えたよ。で、今わかるのは、表面に見えているものだけでは、本当のことはわからない、ってことだ。」)
「良いことも悪いことも、目の前に差し出されたものを全て」やり、その経験を活かしきる。エドのように、私の人生にも様々なことが差し出されてきたし、今もこれからもそれは続くはずだと思う。正しいのかも、間違っているのかも、差し出された時点では、その意味はわからない。意味がわからないから、少し怖くもある。でも、振り返ってみると、本当に大切なことには、不思議と何か勇気のようなものがわいてきて、よくわからないままに「えいや」で飛び込んでしまっているような気がします。そして、それが、その後の流れに決定的に結びついているように思います。それは「頑張り」を強いられる困難の始まりであると同時に、飛躍へのチャンスになるということなのでしょうか。エドのセカンド・アルバムから、そんなことを思いました。

引用: The quoted part is from;
Jon Caramanica. "Ed Sheeran, lighter and Wiser, releases 'X'."The New York Times. 2014.
http://www.nytimes.com/2014/06/22/arts/music/ed-sheeran-lighter-and-wiser-releases-x.html?smid=tw-nytimes&_r=0

2014年8月19日火曜日

音楽と文体(2) ~村上春樹の言葉から~

前回の投稿で、マヤ・アンジェロウのインタビューから、文章と音楽との関係について取り上げました。ちょうど、その後、ツイッターでフォローしている、Open Culture https://twitter.com/openculture からのリツイートで、New York Times紙の記事を知りました。大好きな村上春樹によるエッセイで、ここにも、音楽と文体について書かれてあります。



村上春樹は、幼いころから大変な読書家だったのですが、29歳になるまでは小説を書こうとは少しも思っておらず、大学卒業後は、千駄ヶ谷でPeter Catという小さなジャズクラブを始めました。そして、好きなジャズを朝から晩まで聴いて過ごしていました。そんな毎日を過ごしていたある日、突然、小説を書こう、小説が書ける、という考えが頭に浮かんだのだそうです。それは、こんな風に始まりました。

"...Inside my head, though, I did often feel as though something like my own music was swirling around in a rich, strong surge. I wondered if it might be possible for me to transfer that music into writing. That was how my style got started."        (・・・僕は頭の中で、自分自身の音楽のようなものが、勢いよくあふれるように、ぐるぐる回っているのを感じるようになっていた。この音楽を文章に変えることができるんじゃないか。そんな風にして僕の文体は生まれた。) 

"Whether in music or in fiction, the most basic thing is rhythm. Your style needs to have good, natural, steady rhythm, or people won’t keep reading your work. I learned the importance of rhythm from music — and mainly from jazz. Next comes melody — which, in literature, means the appropriate arrangement of the words to match the rhythm. If the way the words fit the rhythm is smooth and beautiful, you can’t ask for anything more. Next is harmony — the internal mental sounds that support the words. Then comes the part I like best: free improvisation. Through some special channel, the story comes welling out freely from inside. All I have to do is get into the flow. Finally comes what may be the most important thing: that high you experience upon completing a work — upon ending your “performance” and feeling you have succeeded in reaching a place that is new and meaningful. And if all goes well, you get to share that sense of elevation with your readers (your audience). That is a marvelous culmination that can be achieved in no other way."                   (音楽でも小説でも、一番のベースになるのはリズムだ。自分の文体が、気持ちのよい、自然でしっかりしたリズムを持っていなくてはならない。そうでないと、人は作品を読み続けてはくれないだろう。僕はリズムの大切さを音楽から、しかもジャズから学び取った。次にくるのがメロディだ。文学でいうと、リズムに合う言葉の配列ということになるだろうか。言葉がリズムにぴたりと合って、なめらかで美しければ申し分ない。そのあとにハーモニーが来る。それは、心の中に響く、言葉を支える音だ。それから、僕が一番好きなところ、即興演奏。何らかの特別な経路を通じて、物語が内側から縦横無尽に湧き出てくる。僕はその流れに身を任せていればいい。そして、最後に、でもこれがおそらく最も重要だと思われること。作品を完成させる上で、高みを経験することだ。「演奏」を終えるにあたって、これまでにない、意味のあることを成し遂げたのだという感覚があること。このすべてがうまくいけば、自分の読者とある種の昂揚感のようなものを共有することができる。この感覚は、独特のすばらしいもので、他の何をもってしても味わうことはできないものなのだ。) 

学生時代から20年以上に渡って、村上春樹の書くものを読んで来ました。長編も中編も短編も、エッセイもノンフィクションも翻訳も。新刊が出るのを心待ちにして、出ないときは前のを読み返して。なぜそうなってしまうのか。様々な理由が、もちろん考えられるのですが、やはり、一番大きく大切な理由は、彼がここに書いていること、そのままだと思います。毎日の余白で、音楽を楽しむのとまるで同じ感覚で、彼の書くものを楽しんでいるから。彼の本を手に取り、その文体に耳をすませる。そこに、彼の奏でる言葉からのリズムとメロディとハーモニーがあり、それを楽しむのに何にも代えがたい喜びがあるから。そして、特に長編小説には、「これまでにない、意味のあることを成し遂げた」という感覚をまさに彼と共有したという実感があります。確かに、これは「すばらしく、他の何をもってしても味わうことはできない」と思う。理屈よりも先に、音楽的な感覚で捉えるせいか、村上春樹の文章には、大変な中毒性があるような気がします。

引用 The quoted part is from:
Murakami, Haruki. "Jazz Messenger." The New York Times. 2007.

2014年6月29日日曜日

音楽と文体(1)~Maya Angelow の言葉から~

読書を娯楽として考えたときに、私たちが楽しんでいるのは、意味以上に「音」なのではないか?文体の奏でるリズムやテンポ、時には疾走感なんかを、音楽を聴くように味わうことこそが、文章を読むことの醍醐味なのではないか、とそう思っています。

Maya Angelou という方をご存知でしょうか?残念ながら今年の5月28日に鬼籍に入られたようなのですが、恥ずかしながら、実はそれまで、この方のことは知りませんでした。5月28日のツイッターに、彼女を悼む言葉がひっきりなしにツイートされ、それで初めて知るようになりました。ウィキペディアによると、「アメリカ合衆国の活動家、詩人、歌手、女優」であり、「マーティン・ルーサー・キング・ジュニアと共に公民権運動に参加。1993年、ビル・クリントンのアメリカ合衆国大統領就任式にて自作の詩を朗読」などされたようです。ツイッターの様子から、この女性がアメリカの方々に敬愛されていたであろうことが、大変感じられました。

                  

この時に紹介されていた、The Paris Review 1990年秋号のインタビューの中で、Maya Angelouが文章の「音」について言及しています。ちょっと、「我が意を得たり」とうれしくなってしまったので、ここで取り上げることにしました。


INTERVIEWER
"You once told me that you write lying on a made-up bed with a bottle of sherry, a dictionary, Roget’s Thesaurus, yellow pads, an ashtray, and a Bible. What’s the function of the Bible?"
(前に一度、きちんと整えられたベッドに、シェリー酒のボトル、辞書、ロジェのシソーラス、黄色のノートパッド、灰皿、それから聖書をもって、寝転んでお書きになるとおっしゃっていましたね。聖書は何に使われるのでしょう?)

MAYA ANGELOU
"The language of all the interpretations, the translations, of the Judaic Bible and the Christian Bible, is musical, just wonderful. I read the Bible to myself; I’ll take any translation, any edition, and read it aloud, just to hear the language, hear the rhythm, and remind myself how beautiful English is. Though I do manage to mumble around in about seven or eight languages, English remains the most beautiful of languages. It will do anything."
(ユダヤ教の聖典やキリスト教の聖書の、あらゆるすべての通訳というか翻訳の言語は、音楽的で、ただただ素晴らしい。自分に聖書を読んでやるんです。どの翻訳でも、何版でもいいから手に取って、声に出して読んでみる。その言語を聞いて、リズムに耳を傾けて、そして、改めて思うの。英語はなんて美しいんだろうって。私はやろうと思えば、大体7か国語か8か国語でなんとか読み上げたりできるのですが、やはり英語が一番美しいと思います。英語でなんでもできます。)
INTERVIEWER
"Do you transfer that melody to your own prose? Do you think your prose has that particular ring that one associates with the King James version?"
(そのメロディーをあなたの詩に生かすのですか?あなたの詩に、欽定訳聖書の影響が感じられるような特別な印象があると思われますか?)

ANGELOU
"I want to hear how English sounds; how Edna St. Vincent Millay heard English. I want to hear it, so I read it aloud. It is not so that I can then imitate it. It is to remind me what a glorious language it is. Then, I try to be particular and even original. It’s a little like reading Gerard Manley Hopkins or Paul Laurence Dunbar or James Weldon Johnson. "
(英語がどんな音を奏でているか聞きたいんです。エドナ・ミレーの耳にはどんな風に英語は聞こえていたんだろうって。実際に自分の耳で聴きたくて、声に出して読んでみるのよ。それを真似ようというようなことではないの。ただ、この言葉がどんなに輝いている言葉だったかを確認したいだけ。そうすると、自分が特別になれるような気がするし、他の人には無い、私にしか無いものになれそうな気がします。ジェラード・マンリー・ホプキンズとか、ボール・ローレンス・ダンバーとか、ジェイムズ・ウェルダン・ジョンソンの詩を読むのにちょっと似ているかな。)

引用:The quoted part is from:
Angelou, Maya. "The Art of Fiction No. 119." the Paris Review 1990. 

http://www.theparisreview.org/interviews/2279/the-art-of-fiction-no-119-maya-angelou 

2014年5月6日火曜日

ジャスティン・ティンバーレイクが語るファレル・ウィリアムス

タイム誌が選ぶ恒例の、『世界に最も影響力のある100人』2014年版の中に、ファレル・ウィリアムズ の名前が挙がっていました。確かに最近の彼の活躍ぶりを思うと、100人の中に入らないはずがない。Get Lucky, Blurred Lines, Happyなど、彼が関わった音楽は、ぴちぴちとはねていた魚が、水を得て勢いよく泳ぎだすように、「今」という時間の中で、生き生きとした輝きを放つような気がします。


そのファレルについての文章を、ジャスティン・ティンバーレイクが寄せているのですが、この文章がまた素晴らしい。ファレル・ウィリアムズとの初めての出会った時の自分自身の気持ちが的確に描写されています。しかも、その描写からファレル・ウィリアムズの人となりも同時にはっきりと浮かび上がってくるのです。

"When I decided to work on my first solo album in 2002, Pharrell was the first musician I spoke to. I was 21 and ready to say something to the world. But I needed someone to help me translate exactly what that something was. I knew from our first conversation that he was that person." 
(2002年に初めてソロアルバムに取り掛かることを決めたとき、僕が最初に相談をもちかけたのがファレルだった。僕は21歳で、世界に「何か」を問う覚悟はもうできていた。でも、その「何か」とはいったい何なのかを正確に翻訳するために、誰かに手伝ってもらう必要があった。そして、その誰かとはこの人のことだ、と最初の相談の時からすぐに僕にはわかった。)
"I will never forget how free and fun those sessions were. There were no rules, loads of laughs and music being created that made you feel like you could levitate. The collaboration I have with him is like no other. He made me fearless, and I’ve carried that with me the rest of my life."
(あの時のセッションがどんなに自由だったか、そして、どんなに楽しかったか、けして忘れることはないだろう。面倒な決まりなんてなくて、笑いにあふれていて、音楽がどんどん生まれて軽々と宙を舞っているような感じがした。ファレルと一緒にやるのは、他の誰とやるのとも違う。ファレルと一緒だとこわいものなんかなくなった。そして、それは、今でも僕の財産となっている。) 
"That’s what Pharrell does. He injects that vibrant energy into the music in a way that you can feel. Whether it’s the chord changes that remind you of another time or the melody that instantly grabs you, you are transported to another place. You smile, you dance, you clap along. His music actually does make you happy."
(ファレルがするのはつまりそういうことだ。いきいきとしたエネルギーを音楽に注ぎ込む。しかも、みんなが感じとることのできるやり方を使って。それは、昔を思い出すようなコード展開かもしれないし、すぐに心をつかむようなメロディかもしれない。いずれにしても、みんな、別のどこかにもっていかれてしまうのだ。思わず笑顔になって、体が動いて、手をたたき出してしまう。ファレルの音楽は、その通り、みんなをハッピーにしてしまうのだ。)


才能あるアーティスト同士、こうして一緒に関わり合いながら、そこからお互いに何かを見出し、何かを得てそれをさらなる力に変えてますます大きくなっていくのに違いない、そう思えた文章でした。

引用 The quoted passages are from

2014年4月21日月曜日

映画『グッドウィルハンティング』のセリフから

翻訳をするのは、俳優が演技をするのに似ているんじゃないか、と思うことがあります。目の前にあるスクリプト(=原文)の語りにじっと耳を澄ませて、それを自分の声で語り直す。俳優さんは音でそれを語り直すのでしょうが、翻訳は別の言語でそれを語り直します。

映画『グッドウィルハンティング』は私の大好きな映画の1つですが、ロビン・ウィリアムス扮するショーンがマット・デイモン扮するウィルに語りかける印象的なシーンがあります。長いセリフですが長さを感じさせず、大変な説得力を持って心に届いてくる。このロビン・ウィリアムスの名演に触発されて、是非、この言葉を語り直してみたい、という衝動にかられました。もう20年近く前の映画で、DVDの吹き替えはもちろん、日本語版のスクリプト等、ありとあらゆる(すばらしい)翻訳をどこででも目にすることができるような現在、無謀な挑戦なのは百も承知なのですが。
           
        
"So, if I asked you about art, you'd probably give me the skinny on every art book ever written. Michelangelo. You know a lot about him. Life's work, political aspirations, him and the pope, sexual orientation, the whole works, right? But I bet you can't tell me what it smells like in the Sistine Chapel. You've never actually stood there and looked up at that beautiful ceiling. Seen that....If I ask you about women, you'd probably give me a syllabus of your personal favorites. You may have even been laid a fewtimes. But you can't tell me what it feels like to wake up next to a woman and feel truly happy. You're a tough kid. I ask you about war, you'd probably uh...throw Shakespeare at me, right? "Once more intothe breach, dear friends." But you've never been near one. You've never held your best friend's head in yourlap, and watched him gasp his last breath looking to you for help. I ask you about love, y'probably quote me a sonnet. But you've never looked at a woman and been totally vulnerable...known someone that could level you with her eyes. Feeling like God put an angel on Earth just for you..who could rescue you from the depths of Hell. And you wouldn't know what it's like to be her angel, n to have that love for her be there forever. Through anything. Through cancer. And you wouldn't know about sleepin' sittin' up in a hospital room for two months, holding her hand because the doctors could see in your eyes that the terms visiting hours don't apply to you. You don't know about real loss, because that only occurs when you love something more than you love yourself. I doubt you've ever dared to love anybody that much. I look at you: I don't see an intelligent, confident man. I see a cocky, scared shitless kid.... "

(アートのことを尋ねたら、君はこれまでに書かれたあらゆる本にあったポイントを教えてくれるだろう。例えば、ミケランジェロ。君はいろんなことを知っている。代表作、政治的野心、ローマ法王との関係、性的嗜好、全作品・・・、そうだろう?でも、システィーナ礼拝堂がどんな匂いがするのかなんて、君はきっと知らないだろう。実際にそこに立って、あの美しい天井を見上げたことはないから。もし女性のことを尋ねたら、好みのタイプを一覧にして教えてくれるかもしれないね。そういう子と何度か寝たことだってあるかもしれない。でも、一人の女性の隣で目を覚まして心から幸せを感じる。それがどういうことかは、わからないだろう。君は強い。戦争のことでも聞いてみよう。するとシェイクスピアの1節でも飛んでくるかもしれないね。「もう一度あの突破口へ突撃だ、諸君」って。でも、君は戦地に近寄ったこともない。一番大切な友の頭をひざに抱いて、君を見つめて助けを求める友が、息を引き取るのを看取ったことなどない。愛について君に尋ねたとしたら、ソネットでも引用してくるかもしれないね。でも、ある一人の女性に対して、自分の何もかもをさらけだしたことがあるだろうか。その目を見ただけでどうしようもなくなる誰かと知り合ったことは。神様が天使を地上に遣わして下さったような気がするんだ。地獄の底から自分を救ってくれるために。そして、わからないだろう。自分が逆にその人の天使になる、ということがどういうことか。その人を思う気持ちをそこに永遠に持ち続けるんだよ。何があっても。がんになっても。2か月もの間、病室で寝起きする。彼女の手を取って。面会時間なんか関係ないと思っているのは、君の眼を見れば、お医者さんもわかってくれる。君には本当の喪失感なんて、わからないはずだ。だって、それは、自分自身を愛するよりももっと、他のものを愛するからこそわかることだからね。誰かをそこまで愛する勇気なんてないだろう。君を見てると、賢いどっしりと自信を備えた大人には見えない。ただ、うぬぼれて気の毒なほど怯えている子どもにしか思えないよ。・・・)
何でも知っていて、頭の切れる天才ウィルは、この映画できら星のごとく登場したハーバード大のマット・デイモンの姿と重なります。彼は弱冠20代にしてこのセリフを書いているわけで、経験はまだ積み重ならない年齢なのに、経験の持つ重みをもうしっかりと理解していて、それをロビン・ウィリアムズと対比してみせるなんてすごい。やっぱりこの方も天才なのでしょう。そして、ロビン・ウィリアムス。このセリフの語りぶりで、彼が役柄だけでなく実際に経験の器を備えた、大きな俳優に他ならないことがわかります。知らない間にどんどん年齢は積みあがっていくようですが、何とか、年齢に応じたしっかりとした経験を、同時に積み重ねていきたいものだと思います。

"Good Will Hunging" (1997, Miramax Films)

2014年3月31日月曜日

リルケからの励ましの言葉

生きていると、これは謎だと思う瞬間はなかなか多くあるもので、困ったものです。わりに頻繁にあるので、もはや、あまり気にならなくなっているほど。私の場合はそうです。ちょっとしたコミュニケーションの齟齬で、「こういう場合はどうするのが正しいのか」と思うようなものから、根本的に生きる姿勢というか態度というか、そういうものが問われるような大きな問題に至るまで、様々あります。その時々で、今後はああしよう、こうしよう、それは、そういうことか、などと思ったりもしますが、それが本当に正しいものかどうか。よくわかりません。

       
"I beg you, to have patience with everything unresolved in your heart and to try to love the questions themselves as if they were locked rooms or books written in a very foreign language. Don’t search for the answers, which could not be given to you now, because you would not be able to live them. And the point is to live everything. Live the questions now. Perhaps then, someday far in the future, you will gradually, without even noticing it, live your way into the answer."                                 (お願いがあります。じっと我慢して、答えがわからないまま、全てを胸にしまっておいてください。そして、わからないことそれ自体を大切にするように心がけてください。まるで鍵がかかって開かない部屋だとか、全く理解できない外国語で書かれた本を持っているんだと思って。答えを見つけようとしなくてもよいのです。どうせすぐには答えを与えてはもらえないはずです。なぜなら、すぐにはその問題を生きることはできないものだから。そう、全てを生きるということが大事なのです。わからない問題を、今、生きてください。たぶんそうしているうちに、ずっと先になっていつか、気づかないままだんだんと、その答えに向かって進んでいることになるでしょう。) 
                                  Rainer Maria Rilke (1903) Letters to a Young Poet(public library

この一節を見つけた時には、何だか嬉しかったし、励まされました。わからないものはわからないままにして、無理に答えを出して筋を通そう、などと思わなくてよいと思うと、ちょっとほっとします。誠実に生きていればそれがいずれ、答えになる・・・。そんなものなのでしょうか。そうだといいな、と思いました。

引用 The quoted part and the book are found in:
Brain Pickings http://www.brainpickings.org/index.php/2012/06/01/rilke-on-questions/