2016年5月23日月曜日

インスピレーションとアイディア クリス・アンダーソンのTEDトークから

 昔、昔、まだ、TVや電話が普及してしばらくたった頃、ドラえもんだかオバケのQ太郎だか、そういったマンガの中で、「未来には、テレビはテレビ電話になって、相手の顔を見ながら話ができるようになる」などと語られていたような、微かな記憶があります。そんなすごいことが本当にできるようになるのかな、と半信半疑でしたが、蓋を開けてみると、電話はTV電話に進化するどころか、一人一台の小型コンピュータの形に発展を遂げていました。それは、1本の線上をまっすぐに進んでいくような進化ではなく、複雑につながり合った道筋が、幾重にも重なりながら、世界を塗り替えてしまうような形の進化になっているような気がします。

 Brainpicking の記事で、TEDトークのキュレーター、Chris Anderson(クリス・アンダーソン)が、inspiration(インスピレーション)とidea(アイディア)について語っている内容が取り上げられていました。


"Inspiration can’t be performed. It’s an audience response to authenticity, courage, selfless work, and genuine wisdom."
(「インスピレーションというのは、意図して起こすことができるものではない。それは、「本物」や、勇気や無私無欲な仕事、或は真の知恵、といったものに対する受け手の反応です。」) 
"We’re wired to respond to each other’s vulnerability, honesty, and passion — provided we just get a chance to see it. Today, we have that chance… We are physically connected to each other like never before. Which means that our ability to share our best ideas with each other matters more than it ever has. The single greatest lesson I have learned from listening to TED Talks is this: The future is not yet written. We are all, collectively, in the process of writing it."
(「私たちは、お互いの弱さ、誠実さ、情熱、といったものに反応するようにできているのです。そういったものに出会う機会がある、というのが条件ですが。今日、私たちにはそういう機会があるのです。これまでには無い形で、物理的にお互いにつながっている。つまり、最高のアイディアをみんなで分かち合うことのできる力が、かつてよりも大切になっている、ということなのです。TEDトークを聞くことで、私が得た最も大きな、しかも唯一の学びはこういうことです。『未来はまだ、書き出されていない。私たちがみんなで、集まってそれを書いている最中なのだ』」) 
例えば、自分のことは度外視して、全身全霊を傾けて、夢中で 物事に取り組んでいる人の姿を目にした時、私たちは心を動かされます。或は、器用な人ならすぐに真似できてしまう程度のありきたりなやり方でなく、情報を集めてしっかりと学んだ上で、試行錯誤を重ねて本質を捉えている。そういった仕事に出会うと、この人は本物だ、と全幅の信頼を寄せてしまいます。そういう人やそういう仕事は、決して頻繁にではないけれど、確かに身近に、時々見かけることがあるものです。お料理上手、掃除魔、学校の先生、小児科の医師、パン屋さん、シェフ、 自動車の整備士さん・・・。以前なら、身内、ご近所、ごく親しい間で評判になるくらいのものだったのでしょうが、今は違う。その情報がインターネット上に発信さえされていれば、多くの人に感動を与え、注目を集めるチャンスにいつだって開かれている。名前や顔も出ないまま、しまいには著書まで出来てしまう例を、これまでにいくつも見てきました。
"What is an idea, anyway? You can think of it as a packet of information that helps you understand and navigate the world.
(「では、アイディアとは何なのでしょう?それは、わたしたちが世界を把握したり、進んで行ったりするのに役に立つ、ひとかたまりの情報、だと考えるとよいでしょう。 
[…] 
Your mind is teeming with ideas, and not just randomly — they’re carefully linked together. Collectively, they form an amazingly complex structure that is your personal worldview. It’s your brain’s operating system, it’s how you navigate the world, and it’s built out of millions of individual ideas."
あなたの頭の中は、アイディアにあふれています。しかも、ただでたらめに、ではありません。アイディアは注意深くお互いにつながりあっています。そして全て統合して、驚くほど複雑な構造を形作り、それがあなた個人の世界観でもあるのです。それは、あなたの脳のOSであり、ナビであり、そして、それは、何百万もの自分のアイディアから作られているのです。」)
ビッグネームがその名前の大きさで情報を発信する、というパターンはもちろん大いにありますが、それに加えて、名前の大きさの如何を問わず、アイディアそのものがものをいう時代を迎えているのだと思います。これまでは、マス・メディアがオピニオン・リーダーとしての役割を果たしながら、社会は動いてきたのだと思いますが、今、新聞、TV、雑誌、(付随する広告)、書籍、そういったものの役割や意味や形態が、急速に変わりつつあるのを感じます。少し前は無名の個人の発する情報は、かなり怪しかったり、手に取る価値の無いものも多かったものですが、それも、変わってきていていると思う。情報の発信者が情報の受け手に限りなく近いこと、細分化された物事のある1つのことだけに特化して長期に渡って取り組む、といったことが可能なこと、そのマニアックな内容を好む同志を世界中から探し出して共に語り合うことができること。アイディア本位で進んでいくことで、かつては不可能だった深まりと広がりが生まれていることを感じます。私たちは、こういったことを自然の成り行きとして一つ一つ普通に受け止めていますが、実際には私たちの価値観も、今、徐々に、でも、大きく塗り替えられつつあって、その結果、いずれそう遠くない将来、社会の枠組みみたいなものが根本から変わってしまっている、という事態になっているような気がします。 


The quoted part is from:
The Magic and Logic of Powerful Public Speaking: TED Curator Chris Anderson’s Field Guide to Giving a Great Talk
https://www.brainpickings.org/2016/05/05/ted-talks-book-chris-anderson/