2017年6月3日土曜日

美しい生活 ーザイナブ・サルビのインタビューからー

人の一生には終わりがあって、しかも一度きりである。いつその終わりが来るのか、この先もどうなるのか、何もわからないままに、私たちは生きているし、また生きて行かなくてはいけません。それでも自分の人生に満足できるように、悔いのないように生きていきたい。誰もがそう思うのではないでしょうか。私ももちろんそうです。

生きている間には、たくさんの人に出会い、様々なことに従事することになります。そして、その自分を取り巻く無数の事柄に対して、多様な感じ方、捉え方をすることができる。何を大切にしてどう考えればよいのか。大切なものは人それぞれだし、正しい答えなどというものは期待できないでしょう。その判断はとても難しいものだと思います。

NPRのポッドキャスト、TEDラジオ・アワーで、Endurance(耐えること)というテーマが取り上げられたことがありました。その中で、イラク育ちの女性の権利のための活動家、ザイナブ・サルビのインタビューが取り上げられました。

ザイナブ・サルビはTEDトークの中では、戦争には2つの面があると述べていました。1つは前線にいる兵士や戦闘のこと、もう1つはその背後で、死に物狂いで生活を続けている女性や子供のことです。語られるのはいつも、前線にいる兵士や戦闘のことですが、懸命に日常生活を前に進めようとしている女性や子どもたちのことを忘れてはいけないというのです。

そして、サルビがTEDラジオ・アワーのインタビューで、語っていたことが胸に迫りました。


SALBI: You know, when I first went to war zones, I would, like, you know, wear my jeans and sneakers. And like, OK. I'm a women's right activist and a humanitarian, and I'm here to help people. And honestly, it was from the women that I thought I was helping who taught me how to enjoy beauty and celebrate it. It was women in Bosnia, for example, during the days of Sarajevo. It was longest besieged city. And I went in the besiege. And I went - I was like OK - what do you want me to bring you next time I'm here? And the woman said lipstick. I'm, like, lipstick?
(サルビ:はじめて交戦地帯に入った時、私は、ジーンズとスニーカーを履いて。で、よし、私は女性の権利のための活動家で、人道主義者よ。人々を助けるためにここに来ました、という感じでした。そして、なんたることか、私は自分が助けていると思っていた女性たちから、美しさを楽しんで祝福するというのはどういうことかというのを教わったのでした。例えば、サラエボにいた当時の、ボスニアの女性です。サラエボは最も長い間、包囲されていた街でした。私は包囲区域に入りました。入っていって、さあ、次にここに来るときには、何を持って来てほしい?って。すると、その女性は、口紅、と言ったのです。私は、く、くちべに?ってなもんです。) 
RAZ: (Laughter). 
(ラズ:(笑)) 
SALBI: What are you talking about? Don't you want - I don't know - vitamins? You know, something, I don't know. And they're like lipstick. I was like - why? And they said because it's the smallest thing we put on every day and we feel we are beautiful, and that's how we are resisting. They want us to feel that we are dead. They want us to feel that we are ugly.
(サルビ:何言ってるの?あなたが必要なのはそういうものじゃないんじゃないの?わからないけど、ビタミン剤とか?ね、何か、ほら、わからないけど。でもみんな、口紅、みたいに言うんですよ。私はといえば。どういうこと?って。すると、みんな言うのです。それはほんの小さなものですが、毎日身につけて、私たちは自分は美しいと思う。それが、私たちの闘い方なのです。やつらは私たちが、自分はもうダメだ、とか、自分はみにくい存在なんだ、と感じていればよいと思っているんです。) 
And one woman, she said, I put the lipstick every time I leave because I want that sniper, before he shoots me, to know he is killing a beautiful woman. And I look at her, and I was, like, that's how she's keeping her beauty. Like, who am I to take myself so seriously when they are keeping life going through beauty and through the joy, just as my mother did when I was a child?
(ある女性はこう言いました。出かけるときはいつも口紅をつけます。銃を持つ人が、私を撃つ前に、美しい女性を殺しているのだ、と思ってほしいから、と。私はその人を見ました。そして、そういう風に自分の美というものを大切にしているのだ、とわかったのです。美しさや喜びの中で人生を生きていくとすると、自分自身以外の誰が、ちょうど子供のころに母がしてくれたように、自分のことを真剣に考えてくれるでしょうか?) 
And so that act of resilience - you keep the joy. You keep the laughter. You keep singing the song. You keep the melodies of the song going. That's how women resist and show their resilience in the darkest of circumstances, and that's what war is.
(つまり、抵抗するという行為とは、あなたが喜びを忘れず、あなたが笑うことを忘れず、あなたが歌を歌い続ける、ということです。歌い続ける歌のメロディーを忘れない、ということなのです。女性たちは最悪の状況の中で、このように闘い、このように抵抗を示すのです。戦争とはそういうものです。)
そう、戦争中でも毎日の生活は続いていく。幸運なことに、平和な場所に暮らすことができている私にとっても、結局、毎日の生活が一番大事。そう思います。食べる。着る。休む。清潔に保つ。仕事や他のことにたとえ変化があったとしても、生活の部分はいつも変わらずに自分についてきます。その部分を面倒に思わずに、かといって、過度に振り回されずに、きちんと向き合っていくことこそが人生なのではないでしょうか。その生活の中で、物事の本質を見失わないでいること、倫理観の軸があること、に気を付けていたいと思います。そして、それ以上に、生活に美しさを求めることが本当に大切だと思います。以前の投稿にも書いたのですが、美しさをなめてはいけない。美しさを求めてやまない、自分の気もちにじっと耳を傾けるべきだと思います。

The quoted part is from:
How Do People Live and Cope In The Midst Of Violent Conflict? ZAINAB SALBI
February 11, 20161:45 PM "To Endure"
http://www.npr.org/2016/02/11/466044738/how-do-people-live-and-cope-in-the-midst-of-violent-conflict