2017年1月29日日曜日

言葉の力と物語の力 ―オバマ大統領のインタビューから―

先日、アメリカ大統領の就任式が執り行われ、とうとう、オバマ大統領の任期が終わってしまいました。任期の間に、もちろん多くのことを成し遂げられたわけですが、オバマ前大統領といえば、やはり、いろいろな場面での彼のスピーチが一番印象に残ります。さわやかな弁舌。明確で力強い言葉。時には歌を歌ったり、涙ぐんだり。しっかりと「伝わる」言葉の数々が思い出されます。

ニューヨークタイムズの記事で、オバマ前大統領が読書について語っている記事を見つけました。
子どもの頃から読書好きで、大統領の職に就く前に、既に、『マイ・ドリーム: バラク・オバマ自伝』(2007)木内裕也、他(翻訳)という本を書いて出版したことなどについて語っておられました。


That period in New York, where you were intensely reading. 
(その頃、ニューヨークで、読書に没頭されていたのですね。) 
"I was hermetic — it really is true. I had one plate, one towel, and I’d buy clothes from thrift shops. And I was very intense, and sort of humorless. But it reintroduced me to the power of words as a way to figure out who you are and what you think, and what you believe, and what’s important, and to sort through and interpret this swirl of events that is happening around you every minute." 
(1人、世間から隔離されていたような感じでした。本当に。持っていたのはお皿1枚とタオル1枚で、洋服は古着屋で買って。ものすごくぴりぴりしていて、ちょっとおもしろみのない人間でした。でも、読書に没頭する生活が、あらためて言葉の力に気付かせてくれました。自分がどんな人間で、何を考え、何を信じ、何が大切なのかを突きとめる。また、常に次々と休みなく自分の周りで起こる出来事を整理したり、解釈したりする、その手段としての言葉の力にです。)  
"And so even though by the time I graduated I knew I wanted to be involved in public policy, or I had   these vague notions of organizing, the idea of continuing to write and tell stories as part of that was valuable to me. And so I would come home from work, and I would write in my journal or write a story or two."
(そして、私は大学を卒業するころには、自分がやりたいのは公共政策に関わることだ、とわかっていたし、あるいはぼんやりと組織づくりをするようなことも意識していたのですが、書くということを続ける、また、その一つとして、何かを物語ることを続けるという考えは、私にとっては大切なことでした。だから、仕事から戻ると、日記を書いたり、1つ2つ物語を書いたりしていました。)

"The great thing was that it was useful in my organizing work. Because when I got there, the guy who had hired me said that the thing that brings people together to have the courage to take action on behalf of their lives is not just that they care about the same issue, it’s that they have shared stories. And he told me that if you learn how to listen to people’s stories and can find what’s sacred in other people’s stories, then you’ll be able to forge a relationship that lasts.

But my interest in public service and politics then merged with the idea of storytelling." 
(すばらしいのは、私の組織づくりの仕事の中でもそれが役に立ったということでした。その仕事に就いた時、私を雇ってくれた人がこう言 ったのです。人々が結び付き、自分たちの生活のために行動を起こす勇気をもつようになる。人々にそうさせるのは、ただ、同じ問題に関心を寄せている、ということではない。みんなが同じ「物語」を共有しているということなのだ、と。どのように人々の物語に耳を傾けるべきかを学び、その他者の話の中に、何か特別なものを見い出すことができるなら、その時は、長く続く人間関係を作り上げることができるでしょう、と。 
公職とか政治に対する私の興味がまずあって、それが、物語を語るという考えと融合したのです。)

私たちは言語を通して人格をみがき、そして、言語を使って、生きていくための物語を語る。時には誰かの語る物語を信じることもある。誰かと物語を共有することもある。オバマ前大統領は、豊かな読書体験に裏付けられた、はっきりと切れの良いパワフルな言葉で、人々が信じることのできる「物語」を雄弁に語り、多くの人を結び付け巻き込みながら、政治を運んでいた。そのあり方こそ、リーダーのあるべき姿なのではないかと思います。別に私はリーダーでもなんでもありませんが、それでも、言葉を使って生きている一人の人間として、言葉の力、物語の力を十分に心において、決して侮ることのないように、丁寧に言葉に向き合って、生きていきたいものだと思いました。

The quoted part is from:
Transcript: President Obama on What Books Mean to Him
JAN. 16, 2017 The New York Times
https://www.nytimes.com/2017/01/16/books/transcript-president-obama-on-what-books-mean-to-him.html?smid=tw-nytimes&smtyp=cur&_r=0