2014年10月16日木曜日

自分自身にとことん向き合う ~スティングの言葉から~

ここで声を拾っているような、作家や画家やミュージシャン、いわゆるアーティストと呼ばれる人々は、常に、新しい作品を生み出して世に問うて、それで生計を立てておられるわけですが、そのような人生はいかに厳しいものであろうかと、いつも思います。私の好きなStingも70年代に音楽活動を始めてから、既に40年にも及ぶキャリアを持っていることになりますが、そんなにも長い間、第一線で活躍し続けるというのは、どれだけ大変なことでしょうか。2014年3月のTED Talkで、長いスランプに陥って曲が書けなくなり、その後見事にミュージカルThe Last Shipで、曲作りを復活させた時の経験を語っていました。そして、先日、その3月のTEDTalkに基づいたインタビューが、NPRのTEDRadioHourで放送されたという、Stingのツイッターが流れてきました。



RAZ:
When you think of the word creativity, like, how would you define it?
(クリエイティブな力、ということを考えた時に、たとえば、その言葉をどう定義しますか?)
STING:
(Laughter) How would I define creativity? For me, it's the ability to take a risk. To actually put yourself on the line and risk ridicule, being pilloried, criticized, whatever. But you have an idea that you think you want to put out there. And you must take that risk.
(笑い:クリエイティブな力をどう定義するか、だって?僕に言わせると、それは、リスクを取る能力ということだね。バカにされたり、晒し者になったり、批判を受けたり、そんな感じで、実際に自分自身を危険にさらすことになる。でも、世に送り出したいと思うアイディアがある。で、リスクを取らなければならないってことになる。)
RAZ:
Do you feel pressure to be creative all the time?
(常に、クリエイティブでいなければならないことに、プレッシャーを感じますか?)
STING:
I think you're always under, you know, a little bit of pressure, you know. You're... From vanity maybe, you know? You want to be, you know, still relevant after all of these years and then you look at your peers and they're doing well. And you compare yourself with them so there is a bit of that. But, you know, I try and go into a deeper place inside me that is much calmer and it's irrelevant whether I'm successful or celebrated or not. Where my true happiness lies It's got nothing whatever to do with any of that. It's basically just comfort in being who I am. And it's deeper. It's at a deeper level.
(いつでも、少しプレッシャーを感じているものだと思うよ。たぶん、ちょっと見栄をはるんだろうね。長年やってきてるし、まだ、存在意義を感じていたいんだよ。仲間たちはというと、みんなちゃんとやっているし。で、自分と彼らを比べたりしてね。すると、やはり、プレッシャーはあるものだよ。でも、僕は、自分の中にあるもっと深い場所に行ってみるんだ。ずっと穏やかで、自分が成功しているかどうか、とか、有名かどうかなんて関係ないところ。そこには、自分の思う本当の幸せがあって、成功や名誉なんかとは関係が無い。ただ、もう、僕が僕らしくいられて、安心できる。もっと深くて、意味のあるレベルでね。)

Stingは、やがて、10年にも渡り、何も曲が浮かんでこないという、Writer's Block 、いわゆるスランプに陥ったそうです。

RAZ:
 I mean, so what did you do? I mean, how did you break out of it?
(それで、どうなさったんですか?つまり、そこからどうやって抜け出したのですか)
STING:
 I thought well, you know, maybe my best work wasn't about me (laughter). Maybe my best work was when I started to brighten the voices of other people or put myself in someone else's shoes or saw the world through their eyes. And that kind of empathy is eventually what broke this - writer's block we'll call it. Just by sort of stopping thinking about me, my ego, and who I am, and actually saying let's give my voice to someone else.
(考えてみると、そう、最高の作品というのは、自分のことを描いたものではなかったんじゃないか、と。(笑)おそらく、最高の作品とは、自分以外の人々の声に光を当て始めた時、あるいは、他の人の立場から、その人の視点で世界を見た時に生まれるんじゃないか、ってね。そういう他者への共感が結局、この、いわゆる「スランプ」を抜け出すきっかけになった。自分のこと、自我というか、自分らしさというか、そういうものを考えるのを止めて、他の誰かに声を貸そうとすることで、ね。)

ここで引用しているのは、インタビューの中のほんの一部ではありますが、このStingの言葉から、創作活動というのは、とことん自分と向き合う、つらい作業だということがわかります。クリエイティブであること、というのは、自分自身を危険にさらすこと、であり、クリエイティブでいなくてはならない、というプレッシャーを乗り越えるには、そんな危険の届かないずっとずっと深いところに立つことだと語っています。

社会の中で生きていると、どうしても、トレンドだとか、他人の評価だとか、損得だとか、そういったものに惑わされがちで、「自分が本当に好きなこと」とか「自分が自分らしくあること」が、本当は何だったのかわからなくなってくるような、そんな気がします。でも、カッコよく見せようとか、バカにしやがって、とか、そんなことに気を取られずに、外野の声が届かない奥深くの場所で、自分らしさとか、自分にとっての幸せに没頭する・・・。これは、クリエイターではない、私たちにも大切なことではないでしょうか。

そして、さらに、Stingがスランプから脱出できたのは、他者の視点に立って世界を見た時だったというのは興味深い。自分自身ととことん向き合った最後には、とうとう、自分自身を超えて、他者へと辿り着くのだ、という事実は感動的ですらあります。さすが、Sting!

引用:The quoted part is from "How Do You Get Over Writer's Block?" by NPR/TED STAFF
October 03, 2014 8:37 AM ET   http://www.npr.org/2014/10/03/351545257/how-do-you-get-over-writer-s-block

2014年10月1日水曜日

一瞬の歌声に込められた意味 ~ジェフ・バックリーの言葉から~

半年くらい前のことだったでしょうか。毎日、更新を楽しみにしている、洋楽の歌詞を和訳するサイト、『およげ!対訳くん』で、ジェフ・バックリーの歌うHallelujah(ハレルヤ)を初めて聴きました。

   http://oyogetaiyakukun.blogspot.jp/2014/03/hallelujah-leonard-cohen-jeff-buckley.html

この曲は、オリジナルはレナード・コーエンによるもので、ジェフ・バックリーはカヴァーをしているということなのですが、丁寧に演奏されるギターの音に導かれた、彼の歌声にひきこまれました。そして、「歌唱力」とはなんだろうということに思いを馳せてしまいました。声が美しい、声量がある、音程が安定している・・・。歌がうまいと感じるときに、いろいろな要素があると思うし、歌がうまいミュージシャンといえば、亡くなった方まで数え上げれば、枚挙にいとまがないものですが、それでも、このジェフ・バックリーのハレルヤは特別です。この圧倒的なヴォーカルの力はどこから生まれてくるのか。なぜ、こうも美しく、しんと胸に響いてくるのか。

先日、Brain Pickingsに、ジェフ・バックリーのインタビューが取り上げられて、この疑問の答えがわかったような気がしました。




"[What I want to communicate] doesn’t have a language with which I can communicate it. The things that I want to communicate are simply self-evident, emotional things. And the gifts of those things are that they bring both intellectual and emotional gifts — understanding. But I don’t really have a major message that I want to bring to the world through my music. The music can tell people everything they need to know about being human beings. It’s not my information, it’s not mine. I didn’t make it. I just discovered it."
(僕が伝えたいことには言葉なんて無い。だから、言葉で伝えることはできない。僕が伝えたいのは、シンプルに、伝えようとしなくても伝わる感情みたいなもの、そういうものだ。そういうものは、ありがたいことに、知性と感情の両方に届いてくれて、「共感」を与えてくれる。でも、僕は、音楽を通じて、世界に何かものすごいメッセージを伝えたい、なんて思ったりはしていない。僕たちに、人として生きていくのに、知らないといけないことを教えてくれるのは、音楽の方なんだ。「僕が伝えたいこと」じゃない。僕からではない。僕が作り出したわけではなくて、僕はただ、探し出しただけなんだ。) 
"It’s just that, when you get to the real meat of life, is that life has its own rhythm and you cannot impose your own structure upon it — you have to listen to what it tells you, and you have to listen to what your path tells you. It’s not earth that you move with a tractor — life is not like that. Life is more like earth that you learn about and plant seeds in… It’s something you have to have a relationship with in order to experience — you can’t mold it — you can’t control it…"
(人生の本質っていうのは、つまり、ただ、こういうことだ。人生は特有のリズムを持っている。そして、誰も自分のやり方を、押し付けるわけにはいかないんだ。人生がこちらに伝えてくるものに耳を澄まさなくてはいけない。自分の進む道がこちらに伝えてくることに、じっと耳を傾けるんだ。トラクターを使って、切り開いて行く大地。人生はそんなものじゃない。そうではなくて、しっかりと確かめながら、種をまいていく。どちらかというとそんな大地だ。関わりを深めながら、経験をつみ重ねていくべきもので、勝手にねつ造したり、コントロールしたりなんかできないんだ。)

ジェフ・バックリーの言葉に、音楽にすべてをかけて、真剣に向き合った彼の姿がうかがえます。このハレルヤという曲も、詩の内容は、わりに抽象的で、様々な解釈が可能になりそうですが、聞き流したりせずに、心を落ち着けてじっと歌声に耳を澄ましていると、人を愛するということに付随する歓びや哀しみ、諦念が、どうしようもなく歌声ににじんでいるようで、受け入れているのか、抗っているのかわからなくなるような、なんともいえない気持ちになって、心を動かされます。1990年代に、将来を嘱望されていたのに、水泳中に30歳の若さで溺死してしまった(ウィキペディア)ということですが、短い人生の歌声の一瞬一瞬に、音楽に対する、洞察、理解、信頼、畏れなどがこもっていて、それが彼の歌に、他のミュージシャンにはない、圧倒的な深みと陰影を与えることになったのではないか。そんな気がします。

引用;The quoted part is from;
"Brain Pickings"